アダム・スミス(堂目卓生)

三文会のビブリオバトルの回で紹介されていたので買ってみた.

国富論」「道徳感情論」を著したアダム・スミス(1723-1790)ことを書いている本.経済活動における市場の価格調整「見えざる手」が有名.

時代背景

7年戦争(1756-73)により北アメリカとインドからフランス勢を追い払った.西インド諸島や北アメリカからは砂糖,タバコ,綿花などがイギリスに送られ,必要とされた労働力はアフリカから奴隷として連れてきた.

18世紀は啓蒙の時代であった.啓蒙とは人間の中にある理性を重視し,科学技術の進歩によって人々を無知な状態から開放することであった.

産業革命(Industrial Revolution)は18世紀に新たな構造の紡績機が発明された.また,ボーガスの「ビール街」と「ジン横丁」の絵にあるようにイギリス国内でも貧富の差は激しくなっていた.ビールは健全な飲み物で,ジンは強いアルコール飲料(ちょっと飲めば酔える)の象徴であった.

秩序を導く人間本性

道徳感情論は社会秩序のための人間本性を書いた本.人間は胸の中の公平な観察者を持ち,自分の主観だけでなく客観的な思考も行う.

スミスは世間を第一審に,公平な観察者を第二審に例えた.賢人は第二審を重視し,弱い人は第一審に重きを置く.偶然によって称賛を得た場合,賢人は公平な観察者の視点からそれが称賛に値いしないことを感じる一方で,弱い人は世間の称賛により有頂天になる.

通常は賢い人と弱い人は違う判断をくだすが,非難に値いしないにもかかわらず世間から非難されるとき(冤罪)は特別である.弱い人は世間の非難を苦にするし,かつ賢い人は軽蔑すべき罪をしても仕方のない人間であるということに対して残念に思う.

繁栄を導く人間本性

弱い人は富の量と幸せはずっと比例するものであると考え,賢人はある程度の富があればそれ以上は取るに足らない効用をもつ愛玩物でありわずらわしさが大きくなるということを知っている.


富を得る,高い地位を得るには二つの方法がある.一つは働き,技術をつけ叡智や徳を積むこと.もう一つは他人の足をひっぱること.スミスの言う健全な競争は1つ目のことをさす.国富論で紹介される「独占」を含む2つ目の方法は胸の中の公正な観察者により否定されるものである.フェアプレーの精神を無視した競争は社会の秩序を乱し,見えざる手は機能せず,社会の繁栄は実現しない

国際秩序の可能性

人々は自分や自分の家族の繁栄と安全のために祖国を愛する.しかしそれが行き過ぎると祖国に対する愛は近隣諸国に対する偏見や嫉妬,猜疑,憎悪を増幅させしばしば国際法が蹂躙される.

各国における技術・学芸の発展はその国のみならず人類全体に恩恵をもたらす.進歩は他国の足を引っ張ることによっては起こらない.しかし国民的偏見に囚われた政治家や国民は近隣諸国の発展を助けるよりも妨げることが自国の利益につながると考えがちである.